アンパンマンといえば、子どもたちに大人気のヒーロー。しかし、実はその初期作品には、今のイメージとは大きく異なる「怖い」設定やエピソードが存在しています。
初期のアンパンマンは戦争の影響を強く受けており、物語には悲劇や恐怖の要素が色濃く反映されています。そんなアンパンマンが、どのようにして現在の明るいヒーロー像へと変わっていったのか。
このブログ記事では、アンパンマン初期の怖い設定やエピソードを紹介しつつ、現在との違いを詳しく比較していきます。
2025年度前期放送予定のNHK連続テレビ小説『あんぱん』では、アンパンマン作者のやなせたかし氏がモデルとなっています。ぜひ、予備知識としてご覧ください!
目次
アンパンマン初期の「怖い」設定とは?
アンパンマンは現在、明るく優しいキャラクターとして親しまれていますが、やなせたかし氏が描いた初期のアンパンマンは、戦争の影響や自己犠牲のテーマが強く反映されており、現在の作品とはまったく異なる「怖い」設定が多く含まれています。
たとえば、アンパンマンの顔がまるごと食べられてしまう描写や、敵と戦うために自らの体を犠牲にするシーンなど、強い印象を与える内容が多かったんです。
初期アンパンマンの誕生背景と戦争の影響
では、やなせたかし氏は自身の戦争体験をどのように「アンパンマン」に反映させたんでしょうか。
初期のアンパンマンの誕生
やなせ氏が初めてアンパンマンを描いたのは、1970年発行の短編集『十二の真珠』の中の一話。
このときのアンパンマンは、顔がパンではなく、茶色の服とマントを着た中年男性の姿をしていました。正義の味方ではあったものの、派手なアクションや強さを見せるヒーローではなく、空腹の人々にパンを配ることに徹していたんです。
戦争の影響
やなせ氏は戦争で弟を亡くし、自身も兵役経験がありました。終戦後の混乱期には貧困や飢餓を目の当たりにし、「人間は食べなくては生きられない」という現実を痛感。これらの経験が、初期のアンパンマンのストーリーに色濃く反映されています。
「正義」の表現
やなせ氏は、戦争で正義が簡単にくつがえる様を目の当たりにし、「逆転しない正義とは何か」を考え続けました。そして行き着いた答えが、「困っている人を無条件に助けること」。
アンパンマンが自分の顔を分け与える行為は、この「逆転しない正義」を体現したものであり、戦争という極限状態においても変わらない絶対的な愛を表しています。
初期の作品の評価
当時の大人たちからは「顔がなくなるのは残酷」「怖い」といった批判が相次ぎました。しかし、やなせ氏は子どもたちの純粋な心に訴えかけたいという思いから、このスタイルを変えませんでした。
結果として、子どもたちから圧倒的な支持を得て、アンパンマンは国民的キャラクターへと成長を遂げました。
現在のアンパンマンは、明るく楽しい作品として多くの人に愛されていますが、その根底には、初期作品で描かれた「逆転しない正義」と「自己犠牲の精神」が脈々と受け継がれていると言えるでしょう。
アンパンマンの初期作品に見られる「怖い」要素
人間の顔をしたアンパンマン
上述したように、初期のアンパンマンは顔がアンパンではなく、人間のおじさんの姿で描かれていました。
子どもたちにパンを配る姿は現在のアンパンマンに通じるものがありますが、その容姿は現在のアンパンマンのイメージとは大きくかけ離れています。
今の時代の読者にとっては、不気味なものに映るかもしれませんよね。。
顔がなくなるアンパンマン
初期のアンパンマンは、困っている人に自分の顔を丸ごと食べさせてしまう描写があり、顔がない状態でも空を飛んだり、話したりする様子が描かれています。
特に、1973年発行の絵本『あんぱんまん』では、顔の半分以上を食べられたアンパンマンの姿や、顔がまったくない状態でパン工場へ帰る様子が描かれており、当時の読者にとっては衝撃的だったようです。現代の感覚からすると、グロテスクで怖いと感じる人もいるかもしれません。
戦争の影
初期のアンパンマンには、戦争を思わせる描写がしばしば登場します。
たとえば、『十二の真珠』に収録されているアンパンマンは、戦時中に敵機と間違えられて撃墜されてしまうという悲惨な最期を迎えます。また、絵本『あんぱんまん』では、アンパンマンのマントがボロボロの姿で描かれていますが、これは「正義のために戦う人は貧しく、新しいマントを買えない」という作者の考えが反映されているんです。
初期のアンパンマンは、単に子ども向けのヒーローものとして楽しむのではなく、戦争や貧困といった当時の社会状況を反映した、深いテーマを伝えるものでした。読む人にとっては「怖い」と感じられることでしょう。
現在と初期のアンパンマンの違いは?
現在のアンパンマンと初期のアンパンマンの違いは、主に「ビジュアル」「性格・行動」「物語のテーマ」の3つが挙げられるでしょう。
ビジュアル:人間のおじさんから、顔のアンパンが特徴的なヒーローへ
初期のアンパンマンの顔はアンパンではなく普通の人間のおじさん。その後、絵本『あんぱんまん』で顔はアンパンの姿に変わりましたが、この時点ではまだ 8頭身のスラリとした体型でした。
現在の3頭身のアンパンマンになったのは、絵本からさらに時が経ってからです。また、初期は手足の指がリアルに描かれていましたが、現在では手はグローブのような形になっています。
性格・行動:自己犠牲を体現する存在から、子どもたちの友だちとして
初期のアンパンマンは、困っている人に自分の顔を丸ごと食べさせてしまうという自己犠牲の精神が強調された存在。顔が無くなった状態でも空を飛んだり、話したりする描写は、当時の読者にも衝撃的だったようです。
現在のアンパンマンも困っている人を助けるために自分の顔の一部を分け与えますが、初期のように顔全体や半分を与えることはありません。また、顔を食べさせる際も、初期はひざまずいて直接かじらせていましたが、現在では顔の一部を優しく差し出す形になっています。
物語のテーマ:戦争の影と社会風刺、現在は愛と勇気
初期のアンパンマンでは、戦争を思わせる描写や社会風刺の要素が色濃く反映されていました。戦争で敵機と間違えられ撃墜される描写や、貧困で新しいマントが買えないという設定などが挙げられます。
現在のアンパンマンでは、そうした重いテーマは影を潜め、愛と勇気、友情をテーマにした明るく楽しい物語が中心となっています。
これらの違いは「やなせたかし氏の戦争体験→子ども向け絵本→アニメ」という過程で、より子ども向けにアレンジされていったんでしょうね。
やなせたかし氏のアンパンマンへの想いについては、次からもう少し掘り下げていきます。
やなせたかし氏がアンパンマンに込めたメッセージ
アンパンマンの物語は単なる子ども向けのヒーローアニメではなく、やなせたかし氏が自身の経験や哲学を反映させた深いメッセージを持つ作品です。特に、戦争や貧困の中で感じた無力感や悲しみが、アンパンマンというキャラクターの背後にあるテーマとして存在しています。
やなせ氏は、自らの経験を通じて感じた「人を助けることの大切さ」や「自己犠牲の尊さ」を作品に織り込み、アンパンマンを通して子どもたちに伝えようとしました。
戦後日本とアンパンマンの関係
アンパンマンの誕生と進化は、戦後日本の状況や人々の心の変化と密接に関係しています。
戦後日本の状況とアンパンマンの誕生
終戦直後の日本は、戦争による疲弊と食糧難に苦しんでいました。人々は満足に食事をとることもできず、栄養失調で苦しむ子供たちも少なくありませんでした。やなせ氏自身も、兵役経験を通して飢餓の苦しみを身をもって経験しています。
そんな中、アメリカ文化の影響が徐々に強まり始め、スーパーマンやスパイダーマンといったヒーローが子どもたちの憧れの的となりました。しかし、やなせ氏はこれらのヒーローが「飢えた人を助けに行くとか、そういうことは全然やらない」ことに違和感を抱いていたと言います。
やなせ氏は、このような時代背景の中で、人々の空腹を満たし、苦しみを和らげるヒーローとしてアンパンマンを生み出しました。
「正義」の形:時代が求めたヒーロー像
初期のアンパンマンは、自分の顔を食べさせることで他者を救う、自己犠牲の精神を体現した存在でした。戦争を経験し、正義の在り方を模索していたやなせ氏にとって、見返りを求めず、自らを犠牲にしてでも困っている人を助けるというアンパンマンの姿は、「逆転しない正義」の象徴でした。
当初、アンパンマンの「顔を食べる」という設定は残酷すぎると批判されましたが、子どもたちは純粋にアンパンマンの行動に共感し、支持しました。
それは、子どもたちが本能的にアンパンマンの持つ優しさや自己犠牲の精神を感じ取っていたからかもしれません。
「アンパンマン」の変化と普遍性
その後、日本は高度経済成長期を迎え、物質的に豊かになっていきました。それと同時に、アンパンマンも、子どもたちに夢と希望を与える、より親しみやすいキャラクターへと変化していきました。
しかし、どんな時代になっても、困っている人を助けたいというアンパンマンの優しさ、そして勇気を持って行動する姿は、子どもたちの心を掴んで離しません。
根底にある「愛と勇気」のメッセージは、時代を超えて受け継がれる普遍的な価値観として、今も多くの人々に愛され続けているわけなんですね。
自己犠牲の精神を体現するキャラクター
やなせたかし氏がアンパンマンに込めたメッセージは、彼の戦争体験と深く結びついています。「真の正義とは何か」「真のヒーローとはどうあるべきか」を問い続けるアンパンマンの物語には、戦争の悲惨さと、それでも失われなかった人間への希望が込められていると言えます。
やなせ氏は戦争の中で、それまで信じていた正義が簡単に覆される現実を目の当たりにしました。この経験から、彼は「逆転しない正義とは、献身と愛」という信念に至ります。
初期のアンパンマン作品、特に『十二の真珠』に登場する初代アンパンマンは、戦時下の状況を色濃く反映しており、空腹に苦しむ人々にパンを届けるために奔走する姿は、まさに 「献身と愛」 を体現した存在として描かれています。
しかし、初期のアンパンマンは、彼が信じた正義のために、最終的に敵機と誤認され撃墜されてしまいます。 この悲劇的な結末は、戦争の無慈悲さを浮き彫りにすると同時に、「正義は必ずしも勝利するとは限らない」「正義を貫くことは時に大きな犠牲を伴う」という現実を突きつけます。
一方で、やなせ氏は、どんな困難に直面しても、自分の信じる正義を貫き通すことの大切さを訴え続けています。 たとえ傷つき、報われないとしても、「人のために尽くすこと」「愛を貫くこと」 にこそ、真の人間の価値があると彼は信じていたのです。
アンパンマンの物語は、時代を超えて愛され続けています。それは、単にかわいいキャラクターが登場するだけでなく、「真の強さとは何か」、「真の優しさとは何か」 を問いかける、深いメッセージ性を持っているからと言えるでしょう。
では、アンパンマンをはじめ、周辺のキャラクターは時代と共にどのように変化していったのか。次から見ていきましょう。
初期アンパンマンと現代版のキャラクター比較
初期のアンパンマンと現代版のアンパンマンには、キャラクター設定に大きな違いがあります。やなせたかし氏が初期に描いたアンパンマンは、自己犠牲の精神が強く反映されたキャラクターでしたが、現代版ではその面影が残りつつも、より明るく、子ども向けにアレンジされています。
初期アンパンマンとばいきんまんの関係性の変化
上述したように、初期のアンパンマンは顔がパンではなく普通の人間のおじさんの姿で描かれ、空腹の人々にアンパンを配る存在でした。現在のアンパンマンのように、ばいきんまんと戦ったりする描写は初期のアンパンマンにはありません。
ばいきんまんの初登場は、1979年の絵本。最初は単なる「悪役」でしたが、時代を経て少しずつ「コミカルな存在」へと変化。ばいきんまんがアンパンマンに挑むたびに失敗し、最終的には「ばいばいきん!」で物語が終わるのは今ではおなじみですが、現在のばいきんまんは悪事をはたらくにしても、昔から比べればかなりマイルドになりました。
初期作品でのチーズとバタコさんの設定
チーズは初登場時、ばいきんまんの手下として描かれていました。当時のアンパンマンには犬が苦手という弱点があり、バイキンマンはその弱点を突くためにチーズを利用しようとしましたが、バタコさんの優しさにチーズが心を打たれ、パン工場に住み着くことになったという経緯があります。
また、バタコさんはチーズに対して、他のキャラクターたちとは異なる特別な感情を抱いていたことがうかがえます。バタコさんはチーズがパン工場に住み着くことを他のキャラクターたちが反対する中、「今年は戌年だから」という理由でチーズの飼育を許可してもらえるよう、ジャムおじさんにお願いしています。
バタコさんはチーズに対して、単なるペット以上の情を抱いていたのかもしれませんね。
最後に、知っているようで知らない、アンパンマンにまつわる都市伝説についても紹介しておきます。
アンパンマンにまつわる都市伝説
ジャムおじさん黒幕説
この都市伝説は、アンパンマンの宿敵であるばいきんまんが、実はジャムおじさんが作り出したというものです。ジャムおじさんが作ったジャムパンマンがカビてしまい、ばいきんまんになったという説も存在します。
しかし、ばいきんまんは赤ちゃんの頃にバイキン星からやってきたという公式設定があるため、この説は否定されています。
アンパンマン死亡説
最終回でアンパンマンが死んでしまうという都市伝説です。ジャムおじさんが殺害されたり、ばいきんまんと相討ちになったり、強大な敵との戦いで力尽きるなど、様々なパターンが噂されています。
この説は、初期のアンパンマンが戦争中に敵機と間違えられて撃墜されるというストーリーが元になっていると考えられます。
バタコさん結婚説
アニメ初期には、バタコさんがおむすびまんに好意を持っているような描写があり、おむすびまんもバタコさんに好意を持っているという設定があったため、「二人は結ばれるのではないか」と噂されていました。
現在ではこの設定はなくなっています。
アンパンマン食事拒否説
アンパンマンの世界では、みんなで食事をするシーンがありますが、アンパンマンだけは食事をしません。これは、「顔のアンコをエネルギーにして活動しているため」という公式設定があります。
アンパンマンに関する知識は、公式サイトの「アンパンマンワールドに関するQ&Aコーナー」で詳しく紹介されています。
まとめ:アンパンマン初期は怖い→やなせ氏の揺るぎない想いがあった
今回の内容をQ&A形式でまとめました。
Q
アンパンマンの初期(原作)で、アンパンマンは死亡する?
A
確かに、初期のアンパンマンは戦争中に敵機と間違えられて撃墜されるというストーリーがありました。絵本『あんぱんまん』からはそういった要素はなくなりますが、顔の半分以上を食べられたアンパンマンの姿など、現代の人からすれば怖いと思う描写はあります。
Q
アンパンマンの初期はおじさん?
A
顔がパンではなく、茶色の服とマントを着た中年男性の姿をしていました。派手なアクションもなく、空腹の人々にパンを配ることに徹していました。
Q
アンパンマン初期のキャラクター設定は?
A
ばいきんまん、バタコさん、チーズなど、今と変わらないキャラクターも登場していたものの、ばいきんまんの悪事が時代と共に徐々にマイルドになったり、チーズは最初ばいきんまんの手下だったりするなど、違いも見られます。
初期のアンパンマンは、戦争の影響を強く受けていましたが、そこにはやなせたかし氏が作品に込めた深いメッセージがありました。現在は明るいヒーロー像へと変わりましたが、根底にあるものは変わっていないんですね。
なお、冒頭でもご紹介したように、2025年度前期放送予定のNHK連続テレビ小説『あんぱん』のモデルはアンパンマン。ぜひ、予備知識として今回の記事の内容を少しでも思い出してもらえたらうれしいです。
ちなみに、以下の記事ではアンパンマンの曲についてまとめているので、よかったらチェックしてみてくださいね!