「臍帯血で自閉症は治らないんじゃないの?」と疑問をお持ちの方へ。
自閉症については多くの医療機関などで治療法が研究されていますが、臍帯血による治療もその一つ。治療にはどの程度の効果が見込めるのか、科学的根拠や臨床試験の結果はどうなっているのか、できるだけ簡潔に紹介します。
- 臍帯血が自閉症に対してどのような効果があるのか
- 自閉症が治らない理由と現状の治療法
- 臍帯血による治療の科学的根拠と臨床試験の結果
この記事では、臍帯血による自閉症の治療の効果、自閉症が治らない理由、そしてその他の治療法についても紹介します。ぜひ参考にしてください!
目次
臍帯血で自閉症は治らない?【症状を改善できる可能性あり】
臍帯血は、出産時に採取される新生児のへその緒から得られる血液で、多様な細胞に分化する能力を持つ幹細胞が豊富に含まれています。
近年、臍帯血を利用した治療法が自閉症も含めて様々な疾患に対して試みられていますが、自閉症に対する治療についてはまだ確立されたものではありません。
臍帯血による治療とは?
臍帯血による治療とは、新生児の臍帯血から採取した幹細胞を利用して、様々な疾患を治療する方法です。幹細胞は、多様な細胞に分化する能力を持ち、体内の損傷した組織を修復する働きがあります。臍帯血は特に、造血幹細胞が豊富に含まれており、これを用いることで白血病などの血液疾患の治療が行われてきました。
近年では、神経系の障害である自閉症や脳性麻痺などに対しても、臍帯血を用いた治療が試みられています。具体的には、臍帯血から分離した幹細胞を患者に移植し、脳神経の機能改善を図るというものです。
しかし、自閉症に対する治療についてはまだ臨床試験段階であるのが現状です。
臍帯血による治療の効果と科学的根拠
臍帯血療法が自閉症に対してどのような効果を持つのかについては、多くの研究が行われています。以下は、脳内のミクログリアの活性化を臍帯血によって抑制することで、自閉症の症状を改善できる可能性があるという研究結果です。
自閉症患者の脳ではミクログリアが活性化されており、この過剰な炎症反応が自閉症の原因となっている可能性があります。さい帯血細胞の投与は、ミクログリアの活性化を抑制して脳内の過剰な炎症反応を調整することで、自閉症の症状改善に寄与する可能性があると考えられます。
自閉症スペクトラム障害に対するさい帯血を用いた再生医療の有望な結果報告(Stem Cell Translational Medicine. 2017 May; 6(5): 1332-1339)
また、アメリカのデューク大学で行われた臨床試験*では、臍帯血による治療を受けた自閉症児の一部において、対人コミュニケーションや言語能力などで改善が見られました。しかし、これらの研究結果はまだ初期段階のものであり、試験期間も短いものです。
*自閉症スペクトラム障害に対するさい帯血を用いた再生医療の有望な結果報告
科学的根拠としては完全な治療法とは言い難いものの、臍帯血による治療が自閉症の症状に対して一定の効果を示す可能性があるというのが事実です。
自閉症が治らない理由【臍帯血以外の治療法は?】
自閉症は脳の構造や機能に深く関わる障害であるため、完全に治すのは困難であるとされています。具体的には、脳内の神経細胞の接続やシグナル伝達に問題があるとされています。
また、自閉症の原因は多岐にわたり、遺伝的要因や環境的要因などが複雑に絡み合っているという説もあるため、治療は難しいというのが現状です。
自閉症の原因と症状
自閉症の原因は未だ完全には解明されていませんが、遺伝的要因や環境的要因が関係しているという説もあります。
たとえば自閉症を持つ親や兄弟姉妹がいる場合、その子どもにも自閉症を発症するリスクが高くなります。また、妊娠中の母親の感染症や薬物使用、出産時のトラブルなどが関与することも。
自閉症の症状は、対人コミュニケーションが難しかったり、行動や興味が限定的であったりなど、多岐にわたります。具体的には、目を合わせることが少なかったり、言葉の発達が遅れたりする。また、特定のルーティンに固執したり、特定の物やテーマに対する強い興味を示すこともあります。
これらの症状は個々によって異なり、軽度から重度まで様々です。よって、自閉症の症状改善には個別のアプローチが必要であり、一律の治療法は存在しないというのが現状です。
自閉症の改善方法の現状
まずは、作業療法(OT)や言語療法(ST)などの療育です(次項で紹介します)。コミュニケーション能力や社会的スキルの向上を目的とし、個々の自閉症児の特性に合わせて行われます。
また、特定の症状を軽減するために、薬物による治療を行うことも。ただし、これらの薬物は自閉症そのものを治療するものではなく、あくまで症状の緩和を目的としています。
先にご紹介したように、最近では臍帯血による治療法などが研究されていますが、まだ臨床試験段階であり、広く普及するには至っていません。
臍帯血以外の治療法【「療育」が一般的】
最も一般的なのが、先に紹介した「療育」です。
OTやSTのほか、たとえば行動を強化することで望ましい行動を促進し、問題行動を減少させる「応用行動分析(ABA)」なども有名です。ABAは、個別に設計されたプログラムを通じて、子どもたちが社会的スキルを身につけるのをサポートします。
また、「感覚統合」も効果的です。感覚統合は、感覚処理の問題を改善することを目指し、日常生活での機能を向上させることを目的としています。
さらに、食事療法や栄養補助食品が自閉症の症状改善に役立つ可能性があるともされています。
感覚統合や食事療法については以下の記事で詳しく紹介しています。
臍帯血による自閉症治療の長期的な効果や将来
臍帯血による自閉症治療の長期的な効果は?
臍帯血による治療が自閉症に対して長期的な効果を持つかどうかは、現在も研究が進められています。
上述したように、臨床試験の初期段階では、臍帯血による自閉症の治療を受けた子どもたちの中で、対人コミュニケーションや言語能力の改善が見られたという報告もありますが、これらの効果がどの程度持続するかについては明確な結論が出ていません。
長期的な効果を確認するためには、さらに多くのデータが必要です。また、臍帯血療法の効果は個々の症状や患者の状態によって異なるため、すべての自閉症児に同じ効果が得られるわけではありません。このあたりが今後の課題と言えるでしょう。
臍帯血による自閉症治療の今後の展望
臍帯血による自閉症の治療に関する研究は、今後も継続して行われる予定です。
国内では、大阪公立大学と株式会社ステムセル研究所が「自閉症スペクトラム障害に対する自家臍帯血有核細胞を用いた治療法の開発」を実施予定とされています。将来的には多くの自閉症児に適用されることが期待されており、治療の精度が向上することで、より良い改善結果が得られると考えられます。
臍帯血による治療と併せて、前項で紹介した療育を行うことで、相乗効果を発揮できる可能性もあります。臍帯血の今後の発展に注目しながら、自閉症の症状改善の選択肢を広げておくことも重要です。
臍帯血の保存方法や費用
臍帯血の採取と保存方法
臍帯血は、新生児のへその緒から採取される血液。採取は出産時に行われ、母親や赤ちゃんに痛みを伴うことはありません。
採取された臍帯血は、臍帯血バンクで保管されます。低温での凍結保存が一般的で、保存期間は数十年にわたることも可能です。臍帯血バンクは臍帯血の品質を維持するために厳格な管理基準を設けており、定期的な検査と監視が行われます。
保存された臍帯血は、必要なタイミングで解凍され、患者に移植されます。臍帯血バンクには公的バンクと民間バンクがありますが、自閉症の治療に使用できるのは民間バンク。公的バンクと異なり、保存と管理には費用がかかります。
民間の臍帯血バンク(ステムセル研究所)については、以下の記事で詳しく紹介しています。
臍帯血の保管・治療にかかる費用や医療費控除は?
臍帯血による治療には、採取から保管、移植に至るまで多くの費用がかかります。臍帯血の保管費用は年数にもよりますが、数十万円程度。治療費用も大きな負担となるでしょう。
また、臍帯血保管にかかる費用も医療費控除の対象外です。そう考えると、金銭的に負担となるのは避けて通れないでしょう。
それでも私たち夫婦は、自閉症の改善が見込める唯一の方法である臍帯血を保管することにしました。理由については、以下の記事で詳しく紹介しています。
臍帯血による自閉症の治療や研究を進めている機関
臍帯血による自閉症の治療や研究を進めている主な機関は、上述したとおり国内外で以下の2つです。
- デューク大学(アメリカ):
臍帯血による治療の研究と臨床試験を積極的に行っている機関の一つです。自閉症や脳性麻痺などの治療に臍帯血を使用しており、ポジティブな結果が報告されています。 - 大阪公立大学:
大阪公立大学とステムセル研究所は、自閉症に対する臍帯血を用いた臨床研究をスタートする予定です。
臍帯血による自閉症の治療を受けるには?
現状では、デューク大学の「拡大アクセス制度」に参加する方法があります。詳細は以下のURLをご覧ください。
>>拡大アクセス制度(EAP)を利用したさい帯血投与治療のご案内
拡大アクセス制度の概要
- 対象:
26歳までで、本人またはきょうだいの臍帯血がプライベートバンク(民間臍帯血バンク)に保管されていること - 参加費用:
検査、往診、施術の費用の総計は約15,000ドル~。 - その他:
空港送迎プランや、現地での通訳や移動をサポートする安心サポートプランあり。
中々の費用がかかってしまいますが……幸いにも、現時点では26歳までと幅広い年齢が対象。予算が確保できた段階で、この制度を利用するのもありかと。
また、いずれ国内で治療できるようになる可能性も考えて、今から臍帯血を保管しておくのはすごく意義があるのではないでしょうか。「あのときやっておけばよかった」とはなりたくないですからね。。
まとめ【不安な場合は臍帯血保管の検討を】
臍帯血で自閉症が完全に治るわけではありませんが、まったく治らないとも言えません。デューク大学の臨床試験では、一部の自閉症児に対して対人コミュニケーションや言語能力などで改善が見られました。まだ確立されたものではありませんが、臍帯血による治療で自閉症の症状改善が期待できるのは事実です。
ただし、改善効果がどれほど持続するのかは不明瞭ですし、治療にはデューク大学の拡大アクセス制度に参加するほかないなど、課題はあります。しかし、これまで「自閉症は治らない」と言われてきた中で、改善の可能性があるだけでも大きな意義があるのではないでしょうか。
自閉症の娘を持つ親の立場からすれば、そう強く思います。。
臍帯血の保管を検討中で、自閉症のリスクを不安視されている方は、ぜひ前向きに考えていただきたいです。また、もっと詳しく知りたいという方は、民間バンクのステムセル研究所に無料の資料請求をして、担当の方から情報収集をしてみてください。私たち夫婦もそのようにして検討を進めました。
詳細については以下の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてみてください。
今回の記事が少しでもお役に立てば幸いです。