
「臍帯血で自閉症へのアプローチができるって本当?」
そんな疑問をお持ちの方もいるかもしれません。
現在、国内外の医療機関などで様々な研究が進められていますが、臍帯血によるアプローチもその一つとして注目されています。
では、実際にはどの段階まで研究が進んでいるのか?
このブログ記事では、自閉症の長女を持ち、実際に民間バンクで臍帯血を保管している私たち夫婦が、保管を決める際に調べた「臨床研究の現状」に関する情報を、備忘録として整理して共有します。
- 臍帯血を用いた自閉症に関する研究の現状
- なぜ「自閉症は治らない」と言われる中で注目されるのか
- 臍帯血の保管方法や、私たちが保管を決めた背景
この記事は「治療法の解説」ではなく、あくまで「当事者の親が調べた研究情報のまとめ」です。
現状を正しく知り、将来の選択肢について考えるきっかけになれば幸いです。

※本記事は、筆者が個人的な情報収集に基づいて「現在どのような研究が行われているか」を整理した記録であり、医学的な有効性を保証するものではありません。
※臍帯血を用いた治療や臨床研究に関する最新かつ正確な情報は、必ず大学病院や専門の研究機関、厚生労働省の公式サイトをご確認ください。
目次
臍帯血で自閉症は治らない?【臨床研究の現状まとめ】

臍帯血は、出産時に採取される新生児のへその緒から得られる血液で、多様な細胞に分化する能力を持つ幹細胞が豊富に含まれています。
近年、この臍帯血を利用した研究が自閉症を含めて様々な疾患に対して行われていますが、自閉症に対する治療法としては、現時点ではまだ確立されたものではありません(研究段階です)。
そもそも、どのようなアプローチなのか?
臍帯血には、造血幹細胞をはじめとする幹細胞が含まれています。これらは白血病などの血液疾患の治療では既に一般的に用いられています。
一方、近年では神経系の課題である自閉症や脳性麻痺などに対しても、臍帯血を用いた臨床研究が試みられています。
これは、臍帯血に含まれる細胞や成分が、脳内の炎症抑制や神経修復に何らかの良い影響を与えるのではないか、という仮説に基づき研究されているものです。

まだ一般的な治療ではありませんが、海外の論文などではいくつかの結果が報告されています。
報告されている研究結果(海外事例など)
臍帯血が自閉症に対してどのような作用を持つ可能性があるのか、多くの研究が行われています。
たとえば、以下のような研究仮説が報告されています。
自閉症患者の脳ではミクログリアが活性化されており、この過剰な炎症反応が自閉症の原因となっている可能性があります。さい帯血細胞の投与は、ミクログリアの活性化を抑制して脳内の過剰な炎症反応を調整することで、自閉症の症状改善に寄与する可能性があると考えられます。
自閉症スペクトラム障害に対するさい帯血を用いた再生医療の有望な結果報告(Stem Cell Translational Medicine. 2017 May; 6(5): 1332-1339)
また、アメリカのデューク大学で行われた臨床試験では、臍帯血の投与を受けた自閉症児の一部において、対人コミュニケーションなどのスコアで変化が見られたという報告もあります。
*参考:自閉症スペクトラム障害に対するさい帯血を用いた再生医療の有望な結果報告

これらはまだ研究段階の結果であり、すべての人に効果があるわけではありませんが、「新たな可能性」として研究が続けられていることは事実です。
なぜ期待されている? 症状改善に関する仮説メカニズム

臍帯血の成分とその作用
臍帯血には、幹細胞や免疫系に関連する細胞が豊富に含まれています。
これらの細胞は、以下のような作用を通じて自閉症の症状改善に寄与する可能性があります。
- 炎症の調整:
自閉症の症状の一因として、脳内の過剰な炎症反応が挙げられます。臍帯血由来の細胞は、ミクログリアの活性化を抑制し、脳内の炎症を調整することで、症状の改善に寄与する可能性があります。 - 免疫系の修復:
臍帯血の幹細胞は、免疫系の機能を調整する能力を持っており、これにより自閉症患者の免疫系の異常を修復することが期待されています。 - 神経細胞の保護と修復:
幹細胞は神経細胞の保護や再生を促進する作用があり、これが自閉症の神経発達において重要な役割を果たすと考えられています。
*参考①:幹細胞療法:自閉症スペクトラム障害の症状をどのように緩和できるかを科学的に研究
*参考②:自閉症の治療への希望
*参考③:自閉症に対する自家臍帯血治療:理論的根拠と治療の潜在的な目標
*参考④:自閉症に対する幹細胞療法について親が知っておくべきことすべて
臍帯血は、自閉症の症状改善に寄与する可能性があるとされており、そのメカニズムは主に炎症の調整、免疫系の修復、神経細胞の保護に関連しています。
上述したように、臨床研究でも一定の改善が報告されています。

もちろん「これをすれば治る」と断言できるものではありません。しかし、可能性の一つとして研究が進んでいることは、親として希望を感じる事実でした。
そもそも自閉症は「治す」ものなのか?

ここで基本に立ち返る必要があります。
自閉症は病気ではなく、個々の脳の特性や発達の違い(神経発達症)であるとされています。
そのため、医学的には風邪や怪我のように「完治する」「治癒する」という概念は存在しません。
現在の一般的なアプローチは「療育」
現在、自閉症に対して行われている主なアプローチは、医療的な「治療」ではなく、教育的・福祉的な「療育」です。
作業療法(OT)や言語療法(ST)、応用行動分析(ABA)などを通じて、本人が社会生活を送りやすくするためのスキル獲得を支援したり、環境を調整したりすることが中心です。

私たち家族も、長女に対してはこれらの療育を中心に向き合っています。
臍帯血研究は、これらに代わるものではなく、あくまで「将来の新しい選択肢」として位置づけています。
臍帯血研究の将来的な展望と課題

まだ「確立された治療」ではない
重要な点として、臍帯血によるアプローチは、長期的な効果や安全性について、現在も検証が続けられている段階です。
臨床試験において一部で改善が見られたという報告はありますが、すべてのケースで効果が保証されているわけではありませんし、どれくらい効果が持続するのかといった点も、今後の研究課題とされています。
国内でも臨床研究がスタート
一方で、明るいニュースもあります。この分野の研究は今後も継続される見込みです。
国内では、大阪公立大学と民間バンクの「ステムセル研究所」が協力し、「自閉症スペクトラム障害に対する自家臍帯血有核細胞を用いた治療法の開発」に向けた研究を進めています。

このように国内でも研究が動き出していることは、当事者の親として非常に心強く感じています。
臍帯血の保存について(民間バンクの役割)

自閉症研究への利用には「民間バンク」が必要
臍帯血を将来のために残しておくには、「臍帯血バンク」を利用する必要があります。
ただし、バンクには2種類あり、目的が異なります。
自閉症などの再生医療研究において、自分の(あるいは兄弟の)臍帯血を使用する場合、保管先は「民間バンク」である必要があります。
公的バンクは「第三者への寄付(主に白血病治療)」を目的としているため、一度提供した臍帯血を自分のために返してもらうことはできません。
国内大手の民間バンク(ステムセル研究所)については、私が資料請求した際の内容を以下の記事にまとめています。
民間の臍帯血バンク(ステムセル研究所)については、以下の記事で詳しく紹介しています。

臍帯血の保管・治療にかかる費用や医療費控除は?
臍帯血による治療には、採取から保管、移植に至るまで多くの費用がかかります。臍帯血の保管費用は年数にもよりますが、数十万円程度。治療費用も大きな負担となるでしょう。
また、臍帯血保管にかかる費用も医療費控除の対象外です。そう考えると、金銭的に負担となるのは避けて通れないでしょう。

決して安い金額ではありません。
それでも私たち夫婦は、将来の研究の進展に期待して「お守り」として保管することに決めました。
その理由は、以下の記事で詳しく紹介しています。
臍帯血による自閉症の治療や研究を進めている機関

臍帯血による自閉症の治療や研究を進めている主な機関は、上述したとおり国内外で以下の2つです。
- デューク大学(アメリカ):
臍帯血による治療の研究と臨床試験を積極的に行っている機関の一つです。自閉症や脳性麻痺などの治療に臍帯血を使用しており、ポジティブな結果が報告されています。 - 大阪公立大学:
大阪公立大学とステムセル研究所は、自閉症に対する臍帯血を用いた臨床研究をスタートする予定です。
臍帯血による自閉症の治療を受けるには?
現状では、デューク大学の「拡大アクセス制度」に参加する方法があります。詳細は以下のURLをご覧ください。
>>拡大アクセス制度(EAP)を利用したさい帯血投与治療のご案内
拡大アクセス制度の概要
- 対象:
26歳までで、本人またはきょうだいの臍帯血がプライベートバンク(民間臍帯血バンク)に保管されていること - 参加費用:
検査、往診、施術の費用の総計は約15,000ドル~。 - その他:
空港送迎プランや、現地での通訳や移動をサポートする安心サポートプランあり。
中々の費用がかかってしまいますが……幸いにも、現時点では26歳までと幅広い年齢が対象。予算が確保できた段階で、この制度を利用するのもありです。


いずれは国内で治療できるようになる可能性も高いです。そう考えると、「あのときやっておけばよかった」とはならないよう、今から臍帯血を保管しておくのはすごく大きな意義があります。
まとめ【臍帯血保管は自閉症治療の大きな望み】
最後に、今回調査した内容をまとめます。
- 臍帯血による自閉症へのアプローチは、まだ「研究段階」である。
- 一部の研究では改善の可能性が報告されており、期待されている分野であることは事実。
- 国内でも臨床研究に向けた動きが始まっている。
- 自分の子のために将来使う可能性があるなら、「民間バンク」での保管が必要。
臍帯血を保管すれば必ず自閉症が治る、という魔法のような話ではありません。
しかし、これまでの「打つ手がない」という状況に対し、「将来、もしかしたら使えるかもしれない選択肢」を一つ持っておくことは、親として大きな心の支えになると感じています。
自閉症の娘を持つ親の立場からすれば、「可能性がゼロではない」というだけで、それは十分な希望になり得ます。

現在妊娠中の方で、将来の様々なリスクに備えておきたいと考える方は、一つの選択肢として情報を集めてみる価値はあると思います。
民間臍帯血バンクの「ステムセル研究所」の詳細については、私が調べた以下の記事も参考にしてください。
今回の調査メモが、情報の整理にお役に立てば幸いです。



