数分、目を離しただけでした。
戻ってみると、また何かを口に運んでいる。おもちゃの小さなパーツ、服の袖、床に落ちていた紙くず。
「出して」と言いながら口元に手を伸ばす。今日、これで何度目か。もう数えていません。
そんな日々を過ごされてはいないでしょうか。
危ないものは片づけた。噛んでいいグッズも買ってみた。目も離さないようにしている。できることは、もうやってこられたはずです。
このブログ記事でお伝えするのは、「なぜ口に入れるのか」の説明ではありません。わが家で効いたのは、口に入れやすい時間帯を1週間だけ記録して、そこから手の打ち方を決めることでした。
記録は、だいたい4つのパターンのどれかに寄ります。どれに寄るかで、やるべきことが変わる。
発達障害との線引き、誤飲を防ぐ基準、記録の取り方と読み方まで書いています。
私は、重度知的障害を伴う自閉症の娘を育てる父親です。知的障がい支援士の資格を持ち、教材編集の仕事で約7年、子どもがつまずく段差を細かく分ける仕事をしてきました。
※本記事にはプロモーションが含まれています。
目次
なんでも口に入れるのは発達障害のサイン?【まず線引きから】

先にお伝えします。口に入れるという行動だけを見て、発達障害かどうかを判断することはできません。
同じ行動が、年齢相応の発達過程でも、感覚の特性でも、不安でも、栄養状態でも起こるからです。だからこそ、判断材料を先に持っておくと、必要以上に不安にならずに済みます。
2〜3歳ごろまでは、多くの子に見られます
赤ちゃんにとって、口は物を確かめるための大事な場所です。目や手より先に、口の感覚が育つからです。
そのため、手にしたものを口へ運ぶ行動は、生後半年を過ぎたころから自然に増えていきます。なめる、しゃぶる、かじる。形は違っても、どれも同じ確かめ方です。多くの子は2〜3歳ごろまでに、見る・触るという方法へ移っていきます。
3歳前後までなら、この行動そのものを異常と考える段階ではありません。
3歳を過ぎても続くとき、何が関係しているか
3歳を過ぎても頻繁に続く場合、背景に感覚の受け取り方の違いがあることも考えられます。
自閉スペクトラム症などでは、口からの刺激を強く求めたり、噛むことで気持ちを落ち着けたりする行動が見られます。自己刺激行動、スティミングなどと呼ばれる行動です。本人なりに、自分の状態を整えようとしているわけです。
反対のパターンもあります。感覚を受け取りにくいために、より強い刺激を口で補おうとしている場合。
知的障害があり、理解の発達がゆっくりな場合には、実際の年齢ではなく発達の段階に沿った行動として続くこともあるようです。この場合、発達障害という枠だけで考えると、かえって実態から離れてしまいます。
ただ、これはあくまで「関係することがある」という話にすぎません。同じ行動は、不安が強いとき、退屈なとき、歯が生えかけのときにも出ます。行動ひとつを取り出して結びつけず、言葉の育ち、人との関わり方、他の特性とあわせて見る。この順番だけは崩さないでください。
手や指を口に入れるのも、同じことなのか
重なる部分が多いと考えています。
物を口に運ぶのも、手や指を入れるのも、口からの刺激を求めているという点では同じ働きをします。違うのは、手や指は「片づけられない」ということ。危険物を減らす対策が効きません。
娘の場合、手首や袖を噛む行動が特によく出ました。しかも、物を口に入れるより先に出る。この意味については、あとで詳しく書きます。
もうひとつ、爪を噛む、指をしゃぶるといった行動も、この延長線上にあります。これらは物より頻度が高く、外からも見えやすい。そのぶん、親が気づける手がかりにもなります。
「異食症」と呼ばれるのは、どこからか
食べ物ではないものを口にする状態には、異食症(いしょくしょう)という医学的な区分があります。
医学書に挙げられている条件は、栄養にならない食べ物以外のものを1か月以上にわたって食べ続けていること。そして、その行動がその子の発達段階に見合っていないこと。なお、2歳未満の子どもの場合は、発達段階として不相応とはみなされないため、この診断は下されません。
*出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版「異食症」
つまり区切りになるのは、口に運んでいるかどうかではなく、「飲み込んでいるか」「それが長く続いているか」のほうです。
なお、鉄が不足している状態で異食が見られる、という指摘もあります。発達障害以外の背景も検討の対象になるということ。
ここから先は医療の領域になりますので、気になる場合は次の健診を待たずに、かかりつけの小児科へ相談してください。
小学生になっても、娘は口に入れています【わが家の場合】

ここからは、わが家の話です。
娘は重度知的障害を伴う自閉症で、小学生になった今も、ものを口に入れたり噛んだりすることがあります。
好むのは、柔らかい布と、硬いプラスチック。この2つは質感がまるで違うので、口に入れる理由もおそらく一つではないのだと思います。
小さいころと違うのは、噛む力です。
木製やプラスチック製のおもちゃが欠けることが出てきました。当然、これから体が大きくなれば、力はもっと強くなる。壊れるだけならまだしも、割れた破片を口に入れてしまわないか。今はそちらのほうが心配です。
もうひとつ、途中から気にするようになったのが、歯と口の中です。
おもちゃが欠けるほどの力で硬いものを噛んでいるなら、その力は歯にもかかっています。私は歯の専門家ではないので、影響の程度までは書けません。ただ、歯科健診のときに「硬いものを噛む癖があります」と伝えておくだけで、見てもらう視点が変わります。
娘の場合も、この一言を伝えるようになってから、口の中の状態を丁寧に確認してもらえるようになりました。誤飲ばかりに気を取られていると、抜けやすいところです。
療育で言われたのは「無理にやめさせなくていい」でした
娘が通っていた複数の療育で聞いた見解は、だいたい同じでした。
「発達の過程なので、無理にやめさせる必要はない」
「いずれはなくなっていくと思います」
これは、専門的に見れば正しいのだと思います。実際、無理に押さえつければ、本人はもっと不安定になる。それも何度も経験しました。
それでも、早くやめてほしいと思っていました
ただ、親としての正直な気持ちは違いました。
「早くやめてほしい……」
衛生面も気になる。外でやれば人目も引く。将来まで残ったらどうしよう。そういう気持ちが消えたことは、一度もありません。
もしあなたが今、「発達の過程だと分かっていても納得できない」と感じているなら。その感覚は、間違っていません。専門家の見立てと、毎日そばにいる親の困りごとは、そもそも見ている範囲が違うからです。
だから私は、療育の先生に率直に聞きました。「でも、何とかなりませんか」と。
そこからもらった助言と、家で試した記録が、この先に書くことのもとになっています。
やめさせ方を考える前に、危険なものだけ切り離す

対策を考える前に、ここだけは先に済ませてください。
口に入れる行動そのものは様子を見られても、誤飲だけは様子を見られません。
口に入る大きさの目安は「39ミリ」
子どもの誤飲を防ぐ教材として、誤飲チェッカーという筒があります。
これは、3歳の子どもが口を大きく開けたときの最大口径が約39ミリ、のどの奥までが約51ミリという数値をもとに作られたものです。この筒に入ってしまうものは、飲み込んだり詰まらせたりする危険がある。そういう考え方です。
そして、この筒に隠れる大きさのものは、床から1メートル以上の高さに置くことがすすめられています。
*出典:日本家族計画協会「誤飲チェッカー・誤飲防止ルーラー」
手元にチェッカーがなくても、トイレットペーパーの芯で代用できます。芯の中をすっと通るものは、口に入ると考えて片づける。それだけでも、家の中の危険はかなり減ります。
わが家では、この作業を「片づける」ではなく「高さを上げる」と考えるようにしました。捨てる必要はなく、置く場所を変えるだけだからです。
ボタン電池だけは、様子を見てはいけません
数ある誤飲の中で、ボタン電池は別格です。
消化管の中でボタン電池から電流が流れると、電気分解によって電池の外側にアルカリ性の液体がつくられます。この液体はタンパク質を溶かすため、短時間のうちに消化管を傷つけるおそれがある。過去には、気管や食道に穴が空いた事例も起きました。
*出典:消費者庁「子ども安全メール Vol.547」
2018年には電池業界で誤飲防止パッケージが採用されるなど、対策も進みました。それでも事故情報は寄せられ続けており、入院が必要になったケースも報告されています。
*出典:国民生活センター「子どものボタン電池の誤飲事故に気をつけましょう!」(2024年7月31日公表)
注意したいのは、電池そのものより「電池が入っている物」のほうです。リモコン、体温計、キッチンタイマー、光るおもちゃ、絵本。遊んでいるうちにふたが外れて中身が出てくる、という経路が実際に起きています。
口に入れる傾向のあるお子さんがいる家庭なら、電池ぶたがネジ止めになっているかどうか、一度だけでも確認しておいてください。
飲み込んだかもしれないとき、どこに連絡するか
ここで、意外と知られていない区別があります。
たばこや洗剤などの化学物質、医薬品を口にした場合。これは、日本中毒情報センターの中毒110番が相談を受け付けています。365日24時間対応、情報提供料は無料です。
*出典:日本中毒情報センター「中毒110番・電話サービス(一般専用)」
一方で、おもちゃの部品、硬貨、磁石、ボタン電池などは「異物」にあたり、中毒110番の対応対象には含まれていません。飲み込んだものによって、かける先が変わるということ。ここを知らずに電話をして、貴重な時間を使ってしまう場合があります。
異物を飲み込んだ疑いがあるとき、受診すべきか迷うときは、#8000(子ども医療電話相談事業)が使えます。全国共通の短縮番号で、お住まいの都道府県の窓口につながり、小児科医師や看護師に相談できる仕組みです。実施している時間帯は都道府県によって異なります。
*出典:厚生労働省「子ども医療電話相談事業(#8000)とは」
自己判断で吐かせようとする前に、まず連絡してください。何を、いつ、どのくらい口にしたかを伝えられると話が早くなります。
これらの制度や受付時間は変わることがあります。実際に使う場面では、公式サイトで最新の情報をご確認ください。
「なぜ口に入れるのか」より「いつ口に入れるのか」

この記事で最もお伝えしたい部分です。
多くの情報は、「なぜ口に入れるのか」を説明したあと、「だから噛んでいいものを与えましょう」で終わります。私も最初はそうしました。プッシュポップを買い、噛んでいいおもちゃを用意し、危ないものを片づけた。
それでも、減りませんでした。
理由を探すのをやめて、別のものを見るようにしたのは、そのあとです。
見たのは、時間でした。
記録するのは4つだけ
言葉で説明できないお子さんの場合、「なぜ」を突き止めるのは本当に難しい作業です。私は何度も行き詰まりました。
ただ、「いつ」なら、その日から観察できます。
1週間だけ、次の4つを書き留めてみてください。
- 時間帯:何時ごろに口へ運んだか
- 直前にしていたこと:何かの活動が終わった直後か、何もしていない時間か
- その日の体調:睡眠が足りているか、食事から時間が空いていないか
- 何を口に入れたか:布なのか、硬いものなのか、特定のおもちゃなのか
スマホのメモで十分です。毎日きれいに埋める必要もありません。気づいたときだけ書けば、1週間分あれば傾向は見えてきます。
1週間の記録は、だいたい4つのどれかに寄ります
ここが、記録を取る本当の目的です。
集まったメモを並べると、多くの場合、次の4つのどれかに偏ります。そして、どれに偏るかで、打つべき手がまったく違ってきます。
1. 予定の切れ目に集まっているとき
活動と活動のあいだ、何もすることがない時間に集中しているパターン。休日の日中や、テレビを消した直後などに固まります。
このときに噛んでいいグッズを増やしても、たいてい飽きられて終わります。効くのは、その時間に何をするかを先に決めておくこと。次の項目で詳しく書きます。
2. 決まった時刻に集まっているとき
夕方の同じ時間帯、起きてすぐ、昼食の前。時計と連動している場合は、体のほうに理由があります。
眠気、空腹、疲れ。この3つは、活動の内容を変えても解決しません。おやつの時間を30分前倒しする、昼寝を挟む、就寝時刻を見直す。動かすのは予定表ではなく、生活リズムのほうです。
3. 特定の場面に集まっているとき
外出先、人の多い場所、音の大きい場所、初めて行く場所。家ではあまり出ないのに外で出る場合は、刺激の量や不安が関係している可能性があります。
このパターンだけは、噛んでよいものを持ち歩く対策が最初から有効です。落ち着ける場所へ一度離れる、という選択肢も用意しておくといいと思います。
4. 特定の物に集まっているとき
時間帯はばらばらなのに、口に入れる物の質感が毎回似ている場合。柔らかい布ばかり、硬いプラスチックばかり、といった偏りです。
この場合は、その質感で安全なものを1つ用意するのが最短です。布が好きなら清潔なガーゼ、硬いものが好きならシリコン製の噛むおもちゃ。時間より、素材を合わせにいきます。
複数のパターンが混ざることもあります。そのときは、いちばん件数の多いものだけを選んでください。全部に手を打とうとすると、まず続きません。
どれにも当てはまらなかった場合
1週間記録しても偏りが見えないことがあります。そのときに考えられるのは、だいたい3つです。
1つは、記録できた回数がまだ少ないこと。気づいた日だけのメモだと、そもそも比べる材料が足りません。この場合は、もう1週間だけ延ばしてみてください。
2つめは、生活そのものが週によって大きく変わる時期であること。長期休みや行事の前後は、そもそも比較になりません。落ち着いた週で取り直すほうが確かです。
そして3つめ。これがいちばん大事なのですが、時間帯で切り分けられないということ自体が、ひとつの答えになります。
一日を通してまんべんなく出ているなら、それは特定の場面がきっかけではなく、口からの刺激そのものを常に求めている状態に近いと考えられます。この場合は、時間を組み替えるより、噛んでよいものを常に手の届く場所に置いておくほうが現実的です。そのうえで、次に書く相談の目安と照らし合わせてみてください。
いずれにしても、その記録は無駄になりません。「一日中出ています」という事実は、相談先に伝えるべき情報そのものだからです。
わが家の娘は、1に大きく寄っていました。
手持ち無沙汰なとき。何かが終わって次が決まっていない時間。そういう場面で、袖や手首を噛んだり、そばにあるものを口に当てたりすることが増えていました。
逆に、パズルに向かっているとき、散歩をしているとき、体を使う遊びをしているときには、ほとんど出ませんでした。
娘にとって口に入れる行動は、退屈な時間を埋める手段のひとつになっていたわけです。それが分かってから、対策の方向が変わりました。
口に入れる前に、体にサインが出ていることがあります
もうひとつ、記録をつけていて気づいたことがありました。
娘の場合、口へ運ぶ直前に、体のほうが先に変わっていたんです。
姿勢が崩れる。目の焦点が合わなくなり、ぼんやりする。指先がこわばる。床にゴロンと寝転がる。
わが家では、この状態を覚醒レベルが下がっているサインとして見るようにしました。頭と体がぼんやりしてきたときに、感覚を求める行動が出やすくなる、という見方です。
先ほど「手や指を噛むほうが先に出た」と書いたのは、これが理由でした。物を探して口へ運ぶより、手はすぐそこにあるからです。つまり手や指は、いちばん早く出る予告になっていました。
このサインが出たあとに声をかけても、うまくいきません。逆に、サインが出た時点で外に連れ出して歩かせると、口へ運ぶところまで進まないことが増えました。
娘の反応から立てた仮説なので、すべての子に当てはまるとは言えません。それでも、「口に入れたあと」ではなく「口に入れる前」に手が打てるようになったのは、わが家にとって大きな変化でした。
記録が指した時間を、別のことに置き換える

ここからは、いちばん多いパターン1(予定の切れ目に集まる型)を前提に書きます。
やることは2つです。次に何をするかを決めておくことと、「やめなさい」の回数を減らすこと。どちらも、何かを買い足す必要はありません。
足すのは予定、減らすのは声かけ
私は「引き算の家庭療育」という言い方で発信していますが、これは何もかも減らす話ではありません。
減らすのは、声かけの量、叱る回数、同時に追いかける目標の数、目に入るおもちゃの数。
増やすのは、次に何をするかという見通しだけです。
娘の場合、休日なら、お手伝い、散歩、机に向かう課題、おやつ、お絵描き、というふうに、目的のある活動をゆるくつなげていきました。びっしり詰め込むのではなく、「次がある」という状態を保つイメージです。
予定を足して、口を出す回数を減らす。この組み合わせが、わが家ではいちばん効きました。
わが家で置き換えに使ったもの
置き換えに使ったものは、どれも特別ではありません。
- 散歩:足元に意識が向く坂道や階段を入れると、より落ち着きやすい
- 粘土やシール貼り:手先に刺激が入るので、口以外に感覚を向けやすい
- お絵描き:短時間で始められて、片づけも早い
- 保冷剤:冷たさという別の感覚に置き換えられる
このうち、娘にいちばん効いたのは散歩でした。1時間以上、黙々と歩けるようになったころから、家の中の空気そのものが落ち着く日が増えたんです。
感覚を使う遊びの選び方は、以下の記事で詳しく紹介しています。
「やめなさい」の回数を減らしてみる
以前の私は、口に運ぼうとするたびに声をかけていました。
「出して!」
「だめ!」
でも、声をかけるほど手が止まらない場面がありました。癇癪のときも同じで、「大丈夫」「落ち着いて」と言うほど泣き声が大きくなる。当時はその意味が分かりませんでした。
言葉が多すぎるとき、娘にとってそれは支援ではなく、処理しきれない刺激になっていたのだと思います。
そこで、危険がない場面では声をかけず、静かに物を差し替えるだけにしました。取り上げて叱るのではなく、口に入れてよいものをそっと渡す。それだけです。
回数が減ったぶん、本当に止めなければならない場面での一言が、届きやすくなりました。
それでもうまくいかない日はあります
正直に書きます。この方法で毎日うまくいくわけではありません。
娘が小学2年生の初夏、問題行動が一時的に増えた時期がありました。口に入れる行動も、そのころは目に見えて増えていたんです。
このときにやったのは、新しいことを足すことではありません。体を動かす機会を増やすことでした。散歩の回数を戻し、家の中でも体を使う時間を確保する。それを続けたところ、秋以降に落ち着いていきました。
数か月単位で観察して、環境を変えて、また観察する。その繰り返しの結果です。
そして今も、完全にはなくなっていません。減った、というのが正確なところです。
療育に通っているのに変化を感じにくい、という場合。原因が療育の内容ではなく、家で過ごす時間の組み立て方にあることもあります。私が7年かけて遠回りした話は、以下の記事にまとめました。
それでも口に入れるときのグッズ【噛んでいいものを1つ決める】

時間の見直しをしたうえで、それでも口へ向かうときは、グッズの出番です。
順番が大事です。先にグッズを買っても、退屈な時間そのものが残っていると、飽きたところで元に戻ります。わが家がそうでした。
娘に試して、比較的よかったものを挙げます。
- プッシュポップ:指でつぶす感触が刺激になる。ただし長くは持たない
- ポップチューブ:伸ばす感触と音を楽しめる。音が苦手な家族がいる場合は使う場所を選ぶ
- とげ付きのマッサージボール:握るだけで手のひらに刺激が入る。療育でも使ってもらっている
どれも、口を止めるための道具ではありません。口以外の場所に刺激を届けるための道具です。
それでも口に入れてしまうなら、噛んでよいものを1つ決めてしまう方法があります。シリコン製の噛むおもちゃ、チューイングペンダント、清潔なガーゼタオルなど。「これなら噛んでいい」と決まっているだけで、親の側の緊張がかなり減りました。
先ほどのパターン3(場面に集まる型)とパターン4(物に集まる型)に当てはまるなら、この対策が最初から効きます。外出先でも使えるよう、持ち歩ける形のものを選んでおいてください。
こうした感覚グッズは、TemuやAliExpressといった海外通販でも安く手に入ります。何が合うか分からない段階で、色々試して反応を見たいとき。そういうときには選択肢になるでしょう。
ただし、口に入れる前提のものは品質と素材の確認が要りますし、届くまでに時間がかかることもある。噛む用途のものだけは、国内で入手できるものを選ぶほうが安心だと考えています。
一人で遊べるおもちゃを増やしておけば、空白の時間そのものを減らせるはずです。娘が実際に夢中になったものは、以下の記事にまとめています。
なお、噛む対象が物ではなく人に向かう場合は、別の対応が必要になります。
相談する目安と、相談先【園・学校への伝え方も】

「何歳まで様子を見ていいですか」という疑問には、はっきりした一本の線がありません。年齢だけで決まる話ではないからです。
そのうえで、目安を挙げます。
年齢以外にも、相談してよい基準があります
- 飲み込んでいる:口に入れるだけでなく、実際に飲み込むことがある
- 急に増えた:これまでと違い、短期間で回数が明らかに増えた
- 食事に影響が出ている:食べる量が減った、体重が落ちた
- 危険なものを選ぶ:小さい部品など、口に入れると危ないものを繰り返し口にする
- 年齢:3歳を過ぎても頻繁に続いている、5歳を過ぎても強いこだわりとして残っている
このうち1つでも当てはまるなら、次の健診を待たずに相談してかまいません。
「まだ相談するほどでもないかもしれない」とためらう気持ちは、私にもよく分かります。私も、最初の電話をかけるまでにずいぶん時間がかかりました。それでも、早く相談したことで困った経験は、結果的に一度もありません。
どこに相談すればいいか
まずは、かかりつけの小児科です。栄養状態を含めて、体の側から確認してもらえます。
発達のことも一緒に相談したい場合は、自治体の相談機関(保健センターや子育て支援の窓口)が入口になります。すでに療育に通っているなら、担当の先生に「家ではこの時間帯に出ています」と記録を持っていくのがいちばん早い方法です。
私が療育で具体的な助言をもらえたのも、「困っています」ではなく「こういう場面で出ます」と伝えられるようになってからでした。医療や療育の専門職ではない私にできたのは、判断することではなく、正確に伝えることだけだったと思っています。
まだ療育につながっていない場合は、以下の記事も参考にしてください。
園や学校には、3つだけ伝える
家庭だけで抱えると、どうしても行き詰まります。
とはいえ、「口に入れるので気をつけてください」とだけ伝えても、現場では動きようがありません。伝えることを絞ったほうが、結果的に早く動いてもらえます。
わが家が渡しているのは、出やすい時間帯と場面、家で効いた置き換え、触れさせたくないものの3つです。「活動の合間に出やすい」という情報は、そのまま見守りのポイントになりますし、家で効いた置き換えは集団の中でも試してもらえることがあります。
連絡帳や面談の時間は限られています。だからこそ、この3点を短く渡す形にしておくと続けやすい。ここでも役に立つのは、あの1週間の記録です。
なんでも口に入れることについて、よくある質問

Q
なんでも口に入れるのは、いつまで続きますか?
A
お子さんによって違うため、時期を言い切ることはできません。多くの子は2〜3歳ごろまでに減っていきますが、発達の段階によっては、それ以降も続くことがあります。娘の場合、小学生になった今も残っていますが、頻度は当時よりはっきり減りました。
Q
叱ってやめさせてもいいですか?
A
強く止めることは、あまりおすすめできません。落ち着くために口を使っている場合、取り上げるとかえって不安定になることがあるからです。叱るより、口に入れてよいものへ差し替えるほうが、結果的に早く減った実感があります。つい強く言ってしまう日もありますが、それで自分を責める必要はありません。
Q
3歳ですが、おもちゃばかり口に入れます。
A
3歳の時点では、まだ多くの子に見られる行動です。ただ、いつも同じおもちゃ、同じ質感のものを口にしているなら、先ほどのパターン4に当たります。その質感で安全なものを1つ用意して、そちらへ差し替えてみてください。壊れて小さい部品が出るおもちゃは、先に外しておくと安心です。
Q
小学生や中学生になっても続く場合はどうすればいいですか?
A
年齢が上がると噛む力が強くなるぶん、対策の中心が変わります。まず優先したいのは、壊れて破片が出るものと、飲み込める大きさのものを生活圏から外すこと。そのうえで、噛んでよいものを1つ決めておくと、外出先でも対応しやすくなります。周囲の目が気になる年齢でもあるので、人前で使いやすい形のものを選ぶのがおすすめです。
Q
保育園や学校で口に入れていると言われました。
A
まずは、どんな場面で出ているかを聞いてみてください。家と同じ時間帯の傾向が出ていることもあれば、集団の場面特有のきっかけが見つかることもあります。そのうえで、家で効いた置き換えを共有すると、対応がそろいます。
Q
発達障害ではない子でも、口に入れますか?
A
あります。成長の過程で、多くの子が一度は通る行動です。ただし、5歳を過ぎても頻繁に続いていたり、飲み込むことがあったりする場合は、発達や感覚以外の背景も含めて一度確認しておくと安心です。
まとめ
なんでも口に入れる行動について、多くの情報は「発達の過程だから、噛んでよいものを用意して見守りましょう」と伝えています。それは間違いではありません。
ただ、それだけでは減らない子がいます。わが家がそうでした。
娘の場合、行動を減らすきっかけになったのは、原因の説明でもグッズでもありませんでした。「いつ口に入れているか」を1週間記録し、予定の切れ目に集まっていると分かったこと。そこから、時間の中身を変えたことです。
口を止めるのではなく、口へ向かう前の時間に手を打つ。それが、わが家にとっての答えでした。
今日できることは、2つだけです。
トイレットペーパーの芯を持って家の中を一周し、通ってしまうものの置き場所を上げること。そして、口に入れた時間帯をメモに残しはじめること。
どちらも、お金はかかりません。
記録が続かないのではないか、という不安もあると思います。私も、毎日きれいに書けた時期はありません。書けたのは気づいた日だけです。それでも1週間分あれば、どのパターンに寄っているかは見えました。
重度の子の話が自分の子に当てはまるのか、という疑問もあるはずです。正直に言えば、そのまま当てはまるとは限りません。ただ、記録して、パターンを見て、減らしてから足す。この順番そのものは、障害の重さに関係なく使えます。
そして、時間が経つほど噛む力は強くなり、選べる置き換えの種類は減っていきます。始めるなら、早いほうが選択肢は多い。
もし、それでも変わらなかったとしても、あなたの努力が足りなかったわけではありません。やり方が、今のお子さんの状態に合っていないだけかもしれない。合わせ方を探す材料が、あの記録なんです。
減らしてから足す、という考え方そのものは、口に入れる行動だけの話ではありません。声かけ、課題、予定、選択肢。足すのをやめて減らしたときに娘に何が起きたのか、その全部をnoteにまとめました。
観察と記録を続けるための実践記録シートも付けています。この記事で書いた1週間の記録を、そのまま日々の観察に広げていける形です。


