手をつないで歩くことも、ままならない子でした。
娘が療育に通いはじめた頃です。とにかくフラフラしていて、まっすぐ進まない。椅子に座らせても、数秒で体がずり落ちていきました。
「なんで、こんなに体がぐにゃぐにゃなんだろう……」
そう思いながら、何をすればいいのか分かっていませんでした。
私は重度知的障害を伴う自閉症の娘を育てている父親です。このブログ記事では、体がぐにゃぐにゃに見える理由として公的な資料で確認できることを整理したうえで、わが家が3歳前後から家でやってきたことを書きます。
体幹の鍛え方だけを探している方には、少し遠回りに見えるかもしれません。ただ、うちの娘のように、勧められた運動にそもそも取り組めない段階の子もいます。そこから始めた記録として読んでいただければと思います。
- 発達障害の子の体がぐにゃぐにゃに見える理由
- 崩れ方のタイプと、家庭での取り組みを始める前に確認したいこと
- わが家が3歳前後から続けてきた、歩く・座る・環境を整えるという3つの方法
※本記事は、筆者の家族の体験および情報収集に基づいた記録であり、医学的な助言や診断を目的としたものではありません。
※お子さんの発達や身体の状態についてのご判断は、必ずかかりつけ医など専門の医療機関にご相談ください。
※本記事にはプロモーションが含まれています。
目次
発達障害の子の体がぐにゃぐにゃに見えるのはなぜ?【低緊張・感覚・協調運動】

体がぐにゃぐにゃに見える背景には、筋肉の張りの弱さ、自分の体の位置をつかむ感覚の育ち、体を思うように動かす難しさが関わっているとされています。どれか一つだけが原因、という形にはなりにくい部分です。
順番に見ていきましょう。
力が弱いのではなく、張りを保ちにくい【低緊張】
低緊張とは、筋肉の張りが保ちにくい状態を指します。筋力そのものが足りないのとは別の話です。
姿勢を保つには、意識しなくても筋肉に一定の張りが続いている必要があります。その張りが弱いと、座っているだけ、立っているだけでも普通より多くの力を使うことになります。
「発達障害 筋肉がつかない」と気にされている方もいるかと思いますが、筋トレのように負荷をかければ解決する、という単純な話にはなりにくいところです。
自分の体が今どうなっているか、つかみにくい
姿勢を立て直すには、自分の体が今どちらに傾いているかを感じ取る必要があります。
その情報を運んでいるのが、固有受容覚(筋肉や関節から届く感覚)と前庭覚(揺れや傾きを感じる感覚)です。この2つが届きにくいと、崩れていること自体に気づきにくくなります。
うちの娘も、体が斜めになっていても平気な顔をしていました。本人にとっては、その姿勢が「まっすぐ」だったのだと思います。
協調運動の難しさは、自閉症の子に多く報告されている
体を組み合わせて動かすことが難しい状態を、発達性協調運動症(DCD)と呼びます。国が運営する発達障害のポータルサイトでは、はさみや食器がうまく使えない、自転車に乗れない、物にぶつかる、といった困りごとが挙げられています。発生率は5〜8%(数値は資料により幅があります)。
そして自閉スペクトラム症のある子については、軽い程度のものまで含めると89%に協調運動の問題が見られたという報告が紹介されています。かなり高い割合です。
同じページには、こうした問題は子どもの努力不足ではなく発達の特性によって起きているので、叱責ではなく支援を心がけるべきだ、という趣旨の記述もあります。姿勢が保てないことを注意されがちな子ほど、この一文は知っておいて損はないと思います。
もう一点、触れられていることがあります。協調運動の問題があると、体育でうまくできなかったり、体を使う遊びを避けたりして、劣等感や疎外感が高まりやすい。自己効力感が下がりやすく、抑うつが見られやすいという報告にも言及されています。
姿勢の話が、姿勢だけで終わらないところが難しい部分です。
ただ、それを防ぐ手段が体を鍛えることしかない、という話でもありません。周りの大人が背景を知っているだけでも、その子への当たり方は変わります。
*出典:発達性協調運動症(発達障害ナビポータル)
感覚の育ちについては、遊びの形で家庭に取り入れる方法を以下の記事にまとめています。
同じ「ぐにゃぐにゃ」でも、崩れ方は同じではありません

家でできることを決めるときは、原因を特定するより先に、崩れ方を見たほうが早いことがあります。大きく分けると3つです。
- いつも崩れている:時間帯や場面に関係なく、立っても座ってもフラフラしている
- 特定の場面だけ崩れる:家では平気なのに園や学校の活動中だけ崩れる、疲れてくると崩れる
- 最近になって変わった:これまでできていた姿勢や動きが、急にできなくなった
わが家の娘は、はっきりと1つ目でした。時間帯による違いは、私はほとんど感じたことがありません。朝でも夕方でも同じようにフラフラしていて、日によって多少の差はあっても、時間で説明できるようなものではありませんでした。
2つ目に当てはまる場合は、体そのものより、その場面で何が起きているかを先に見る手があります。音が多い、人が多い、活動が長い。姿勢が崩れるのは、体力の問題ではなく、その環境で消耗している結果ということもあります。
3つ目は、家庭での取り組みより先に相談を優先したい形です。次の見出しで書きます。
うちも、いつも崩れているうえに、疲れるとさらに崩れる、という混ざり方でした。その場合は「いつも崩れている」を前提に土台づくりから入って、あとから場面ごとの調整を足していく形で問題ないはずです。
鍛える前に、一度だけ確認しておきたいこと【相談の目安】

体の柔らかさや姿勢の崩れは、発達障害だけで起こるものではありません。トレーニングを始める前に、一度は医療の側で確認しておいたほうが安心です。
さきほどのDCDの説明には、脳性まひ、筋ジストロフィー、変性疾患といった運動に影響する神経疾患がないこと、という前提が置かれています。つまり、それらの可能性を確認したうえで初めてDCDという整理になる、という順番です。
そのため、次のような様子がある場合は、家庭での運動より相談を先にしたほうが安心です。
- これまでできていた動きが、できなくなってきた
- 左右で明らかに動きや力の入り方が違う
- 転び方が急に増えた、階段の上り下りが急に難しくなった
相談先は、まずはかかりつけの小児科で構いません。発達の相談として広く受けてくれる窓口としては、各都道府県・政令市に置かれている発達障害者支援センターもあります。
*出典:発達障害者支援センター・一覧(国立障害者リハビリテーションセンター)
わが家の場合は、体のことだけを相談したわけではなく、発達全般の相談の中で「もっと歩いたほうがいい」と言われる形でした。体の話だけを切り出して相談先を探す必要はないと思います。
わが家が家でやってきたこと【歩く・座る・合図で動く】

娘に一番効いたと感じているのは、歩くことでした。特別な道具も、決まったメニューもありません。
3歳前後の話です。当時の娘は、椅子に座っていられず、療育で運動のプログラムに入ることも難しい状態でした。そこから始めています。
歩く
正直に書くと、最初は歩く意味が分かりませんでした。
複数の療育から「もっと歩いたほうがいい」と言われたのですが、体幹の弱さと散歩がどうつながるのか、当時の私には見えていませんでした。とりあえず外に連れ出してみたら、今度は全然歩けない。すぐに座り込むか、フラフラしてこちらの手を引っ張る。
それでも、毎日のように歩く練習を続けました。休日には、私が娘を連れて長い距離を歩いたり、ハイキングに出たりもしました。
やったのは、次の3つくらいです。
- 手をつないで、少し速めのテンポで歩く:ゆっくりだと、かえってフラフラしやすい
- 「止まって」で止まる:大人のペースに合わせる練習も兼ねる
- 距離ではなく、時間を少しずつ伸ばす:今日は昨日より2分だけ長く
本当に少しずつでしたが、歩ける時間が伸びていきました。最終的には、途中でバランスを崩すことなく1時間以上続けて歩けるようになりました。体幹も、それにつれて鍛えられてきた感じはしています。
歩くことが姿勢を変えた、と因果まで言い切れるものではありません。療育にも通っていましたし、同時に他のことも試していました。ただ、家でやったことの中で手応えがあったのは何かと聞かれたら、私は歩くことを挙げます。
走り方が気になっている場合も、いきなり走る練習から入らないほうが進みやすいことがあります。
座る・立つ
座る練習は、生活の中に混ぜてしまうのが続きます。
わが家は、アンパンマンを見るときは必ず椅子に座らせることにしました。立ち上がったら、その時点で再生を止める。最初は抵抗していましたが、そのうち立ち上がらなくなりました。座ったまま最後まで見られるようになっています。
立つほうは、秒数で区切りました。少しだけ高さのある台に立たせて「気をつけ」をさせ、10秒数える。10秒が難しければ3秒からでいいと思います。娘も最初は10秒が限界でしたが、1分以上静止していられるところまで伸びました。
あわせて続けていたのが、「起立」「着席」「礼」といった合図で動く練習です。姿勢そのものというより、声をかけられたときに体を止めたり動かしたりできるかどうかの練習でした。
今この状況にいる親御さんに私が最初に伝えたいのも、実はこの部分です。歩くことは大切。それと同じくらい、親や支援者の指示に体が従える状態を作っておくことが、あとから効いてきます。
遊具を使う
道具を使うなら、本人が勝手にやりたがるものを選ぶのが早いです。
うちで続いたのは、トランポリン、ぽっくり、バランスボール、キックボードあたりでした。バランスボールは今もよく使っています。キックボードは、2輪でバランスを取りながらカーブを曲がるところまでできるようになりました。
逆に、続かなかったものもあります。平均台は公園でやってみたのですが、周りの遊具が目に入ると、そちらに気を取られてしまう。娘の場合は、平均台が難しいというより、公園という場所が向いていませんでした。
「鍛える」以外に、崩れにくい環境を先に作る

体を変えるより先に、姿勢が崩れにくい状況を用意するほうが、結果が早く出ることがあります。
さきほどの平均台がその例でした。同じ課題でも、刺激の少ない場所でやれば違ったかもしれません。子どもが集中できていないとき、原因が課題そのものではなく、周りにあることは珍しくない話です。
先ほどのDCDのページでも、姿勢が崩れにくいように座面へ滑り止めマットを敷く、といった道具の調整が紹介されています。体を鍛えるアプローチと、生活の中でできるようにするアプローチは、どちらも支援の方法として並んでいます。片方だけが正解ではありません。
家でできる調整としては、このあたりが手をつけやすいはずです。
- 椅子に座ったときに、足の裏が床や台にしっかり着く高さにする
- 課題の時間を短く区切って、崩れる前に終わる
- 周りに気になる物が入らない向きに、机や椅子を置き直す
崩れてから立て直すより、崩れにくい場所で始める。手間としては、こちらのほうがはるかに軽いです。
家庭だけでは難しいと感じたときの選択肢【運動療育】

家でやってみて続かない場合、続かない理由が親の側にあるとは限りません。子どもに合う課題の段差を、家庭だけで見つけるのは難しいものです。
娘の通い先を探していた頃、私は10か所以上の児童発達支援事業所を見て回りました。そのとき思ったのは、療育は通わせて終わりではない、ということです。外でやっていることを家の毎日にどう落とすかで、結果が変わってきます。逆に、家で形を作れない部分は、外の手を借りたほうが早い。
費用や手間が気になる場合は、無料の体験から試す方法があります。娘が体験したのは、オンラインで受けられる運動療育の「へやすぽアシスト」でした。
オンラインで体をどこまで見てもらえるのかは、気になるところだと思います。うちのときは、レッスンのあとにフィードバックの時間があり、家での取り組みについても案内がありました。送迎がない分、続けやすさという点でも現実的な選択肢です。
体験の様子と、料金や進み方の詳細は以下の記事にまとめていますので、雰囲気だけでも見ていただければと思います。
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そのほかの民間療育も含めて比較したい場合は、以下の記事で選び方と費用をまとめています。
よくある質問

Q
大人になっても体幹の弱さは残りますか?
A
大人になってからも姿勢の保ちにくさや疲れやすさが残っている、という当事者の発信はあります。子どものうちに取り組めば必ず解消する、という保証はありません。ただ、体の使い方に本人が気づけるかどうかで、疲れ方は変わってくるはずです。このブログ記事は子どもの家庭療育を前提に書いています。
Q
何歳から始めればいいですか?
A
わが家が本格的に取り組みはじめたのは3歳前後でした。年齢というより、その子が今できることに合わせて段差を下げられるかどうかだと思います。歩けるなら歩くところから、座れないなら座る時間を数秒から、で構いません。
Q
体幹トレーニングは毎日やる必要がありますか?
A
うちは「毎日メニューをこなす」形にはしませんでした。歩く練習は毎日のように続けましたが、道具を使う遊びは本人がやりたがったときだけです。続かない形を作ると、親のほうが先に疲れます。
Q
トランポリンは本当に効果がありますか?
A
どの療育でも勧められる定番で、うちでも長く続いています。ただ、跳べば姿勢が良くなるという性質のものではありません。体を大きく使う遊びの一つとして、他の取り組みと組み合わせる位置づけで考えるのが現実的です。
Q
このまま体幹が弱いと、将来どうなりますか?
A
将来がどうなるかを断言できる材料は、私は持っていません。ただ、前述の資料では、体を使う場面を避けるようになって劣等感が高まりやすいことが指摘されています。座って作業を続ける場面や、体を使う仕事を考えると、影響が出る場面はあるはずです。不安をあおるつもりはありませんが、早いうちから体を使う機会を作っておいて損はないと思います。
Q
姿勢が悪いのは、叱って直すべきでしょうか?
A
前述の発達障害ナビポータルの記述では、姿勢を維持できないことは努力不足ではなく発達の特性によるもので、叱責ではなく支援が必要だとされています。「ちゃんと座りなさい」で直る性質のものではない、という前提で見たほうが、親も気持ちが楽になるはずです。
まとめ:ぐにゃぐにゃは、鍛える前に見ておくことがある
体がぐにゃぐにゃに見える理由として、低緊張や感覚の育ち、協調運動の難しさが挙げられています。この整理自体は、そのとおりだと思います。
ただ、原因の名前が分かっても、明日の夕方に家で何をすればいいのかは決まりません。わが家がやったのは、崩れ方を見て、相談すべきものは相談して、残った部分を歩くことと座ることから積んでいく、という順番でした。
最後にもう一度書いておきます。歩くことは大切です。そして、親や支援者の指示に体が従える状態を作っておくことが、それと同じくらい効いてきます。この2つは、家でも今日から始められます。
まずは、お子さんが今日どんな崩れ方をしていたか、思い出してみるところからでいいと思います。
なお、家庭療育の進め方そのものについては、以下のnoteに詳しくまとめています。課題の段差の下げ方や、記録の取り方を知りたい方は、以下もご覧ください。
参考文献
- 発達性協調運動症(発達障害ナビポータル/国立障害者リハビリテーションセンター・国立特別支援教育総合研究所)
- 発達障害者支援センター・一覧(国立障害者リハビリテーションセンター)
- 『子ども理解からはじめる感覚統合遊び 保育者と作業療法士のコラボレーション』(クリエイツかもがわ)
※いずれも執筆時点で内容を確認済みの公式ページです。

