
「療育って、ただ遊んでるだけじゃないの?」
そんな疑問を持ったことはありませんか?
実は私自身、重度の知的障害と自閉症がある娘(現在8歳)を育てていますが、初めて療育の現場を見たときは同じように感じたんです。
娘は発語がなく、こだわりも強いタイプ。見学に行くと、ミニカーを走らせずにひたすらタイヤを回していたり、ブロックを積むのではなく横に一列に並べたり……。先生はそれを止めるでもなく、ただニコニコして見ているだけ。
「これなら家で遊ばせているのと変わらないんじゃ……?」と、正直かなり不安になったのを覚えています。
でも、その「遊び」の中には、実は専門的な意図と深い目的が隠されているんです。子どもが「楽しい!」と感じながら自然に身につけていくスキル、それこそが療育の本質なんですね。
このブログ記事では、私たちの実体験も交えながら、「遊んでるだけに見える療育」にどんな意味があるのか、その効果や裏側にある専門性について紹介していきます。
療育に対するモヤモヤした不安が、読み終えるころには「なるほど!」という納得に変わるはずです。

- 一見「遊んでいるだけ」に見える療育の裏にある、専門的な意図と深い目的
- 「楽しい!」が脳を育てる! 遊びを通じて身につく具体的なスキルと成長の仕組み
- 重度障害児の父である筆者が体験した、「遊び」から生まれた確かな変化の実話
目次
なぜ「療育=遊んでるだけ」と思われるのか?

見学でよくある保護者の第一印象
児童発達支援(療育)や放課後等デイサービスを初めて見学する保護者の多くが、「遊んでるだけでは?」という印象を受けるのはごく自然なことなんです[1]。
たとえば、広いスペースで子どもたちがトランポリンを飛び跳ねたり、ブロックを積み上げたり、ままごと遊びに夢中になっている姿。
一見すると、保育園や幼稚園と何が違うのか分かりにくいですよね。
私もそうでしたが、子どもが独特な遊び方(感覚遊びなど)をしていても、先生がそれを矯正せずに見守っている姿を見ると、「もっとお勉強っぽいことをしてくれると思っていた」「言葉の練習や訓練をしてほしいのに」と、ギャップを感じてしまう方も少なくありません。

でも、表面的には“遊び”に見えても、その中身には子どもの発達を支える仕掛けがしっかりと組み込まれています。
それを見抜くには、少しだけ専門的な視点が必要なんです。
訓練や勉強と比べたときの“ギャップ”
療育と聞くと、「発音練習」や「手先を使った課題」、「座って机に向かうトレーニング」のような“訓練的なもの”を想像する方は多いですよね。
学校教育やリハビリのようなスタイルのほうが、「ちゃんとした支援」に見えるからかもしれません。
そのため、療育の現場で子どもたちが自由に遊んでいる姿を目にすると、「それって本当に支援になっているの?」と疑問を持つのも無理はないでしょう。
ですが、子どもたちは大人のように「頑張るぞ」と意識して成長するのではなく、“楽しさ”の中で自然とスキルを身につけていくんです。

訓練のように見える支援がすべて正しいとは限りません。
むしろ遊びの中にこそ、「自分で気づく」「やってみる」「成功体験を得る」という要素がたくさん詰まっているんですよ。
なぜ誤解が生まれるのか
こうした誤解が生まれてしまうのには、いくつか理由があります。
まず、支援者が保護者に対して“遊びの意図”や“目的”を十分に伝えきれていないケース。
専門職としての療育スキルが高くても、それを言葉で噛み砕いて伝えるのは意外と難しいものなんです。
また、私たち保護者自身も「早く子どもを伸ばしたい」「少しでもできることを増やしたい」という切実な想いを持っていますよね。
だからこそ、「もっと成果の見える支援をしてほしい」と焦ってしまうこともあります。

しかし、本当の意味での“支援”とは、目に見える成果だけで判断できるものではありません。
「遊びに見えるけど、実は緻密に設計された成長の場である」
――この事実に気づいたとき、療育に対する見方がガラッと変わってくるはずです。
実は計算された「遊び」が、療育の本質

遊びを通じて発達を促すプログラム
療育における「遊び」は、単なる“自由時間”ではありません。
実際には、子どもの発達段階や特性を見極めたうえで設計された、専門的なプログラムの一環として行われているんです。
たとえば、トランポリンを跳ぶという一見シンプルな動き。
これは、体幹を鍛えると同時に、バランス感覚や前庭覚(ぜんていかく)と呼ばれる感覚統合機能にも働きかけています[2]。
また、積み木を使った遊びでは、以下のような多様なスキルを育むことができます。
- 指先の巧緻性(こうちせい)
- 空間認知力
- 集中力
- 順序立てて考える論理性

つまり、遊びという行動を通して、「体」「頭」「感覚」「社会性」など子どもが生きていく上で必要な能力を総合的に刺激しているんですね。
療育の中にある“目的”と“評価軸”
療育の現場では、活動一つひとつに必ず“狙い”があります。
私がかつて、娘がただミニカーのタイヤを回したり、おもちゃを眺めているだけの様子を見て不安になったとき。
思い切って先生に「この遊びの目的は何ですか?」と聞いてみたことがあります。
すると先生は、即座にこう答えてくれました。
「これは指先の分離運動を促しているんですよ」
「実は玩具を見ているのではなく、私と目が合うタイミングを待っているんです(共同注意の練習)」
ハッとしました。
ただ遊んでいる、あるいはボーっとしているように見えた時間にも、先生たちは「両手の協調動作の定着」や「視線の誘導」といった明確な目的を持って関わっていたんです。
また、その活動がどう発達につながっているのかを評価し、次の支援に活かす「フィードバック」も行われます。
これが、単なる「遊び」と「療育としての遊び」の決定的な違いなんですね[3]。


支援者の方は「楽しく見える遊びの裏にある専門性」を常に意識しながら、子どもと関わってくれているんです。
遊びが「楽しい」からこそ子どもが伸びる
子どもにとって、「楽しい」という感情は最高のモチベーションです。
強制されることではなく、自分の興味や好奇心で動くからこそ、“学び”が深く、定着しやすいんです。
これは脳科学的にも証明されており、快の感情を伴った経験は、神経回路の形成に強く影響を与えるといわれています[4]。
さらに、遊びの中で「できた!」「うまくいった!」という成功体験を積み重ねることは、自己肯定感の向上に直結します。
発達に課題を抱える子どもたちにとって、これは何よりも大切な支援の一つです。

遊びは「楽しいだけ」ではありません。
楽しいからこそ、子どもは無理なく自分の力を発揮し、新たな挑戦にも前向きになれるんですよ。
療育の「遊び」にはどんな種類がある?

身体を使った遊び(粗大運動)
療育の現場では、「体を大きく動かす遊び(粗大運動)」がよく取り入れられます。
トランポリン、平均台、滑り台、ボール遊び、バランスストーンなどがその代表例ですね。
これらは、子どもが持つ基本的な運動能力を育てるのはもちろんのこと、「感覚統合」と呼ばれる分野でも重要な役割を果たします。
たとえば、トランポリンは上下の動きにより前庭感覚(バランスを取る力)を刺激し、ボールキャッチは視覚と手の連動(視覚―運動協応)を育ててくれます。
また、体を動かすこと自体がストレス発散になり、情緒の安定にも大きくつながるんです[5]。

感覚統合については、以下の記事で詳しく紹介しています。
手先を使った遊び(微細運動)
微細運動とは、手や指を使った細かい動作のこと。
療育では、次のような遊びを通じてトレーニングされます。
- ブロック遊び
- 紙を折る・ちぎる
- ビーズ通し
- ハサミやのりを使う工作
- ピンセットやトングで物をつまむ遊び
これらの活動は、食事や着替え、文房具の操作など、日常生活動作に直結する能力を育てるものです。
また、指先の操作に集中することで、注意力や集中力も養われます。

うまくできたときの達成感は、自信を育む大きな要素にもなるんですよ[6]。
社会性や言葉を育む遊び
療育の中で特に重視されるのが、「他者との関わり」を学ぶ遊びです。
- ままごとやお店屋さんごっこ(ごっこ遊び)
- すごろくやカードゲーム(ルールのある遊び)
- ペアで行う課題(協力や順番を学ぶ)
- 会話形式の絵カード遊び(言語理解と表現)
これらの遊びは、コミュニケーション力や他者との関係構築力を自然に育ててくれます。
また、相手の気持ちを想像したり、順番を守ることの大切さを身につける貴重な機会にもなります[7]。

特に、発達障害のお子さんにとっては、こうした社会的スキルの練習は生活力にも直結しますよね。
感覚統合を目的とした遊び
感覚統合についてもう一度確認しておきますと、「見る・聞く・触る・動く」などの感覚情報を脳で整理し、体をうまく動かしたり、状況に合った行動を取れるようにする力のことです。
感覚統合に配慮した遊びには、次のようなものがあります。
- 砂遊びや粘土遊び(触覚刺激)
- トランポリン・滑り台(前庭覚刺激)
- おもり入りクッションを使った抱っこ遊び(固有覚刺激)
これらの遊びを通じて、子どもは「感覚のズレ」を少しずつ整えていきます。
その結果、落ち着きが出たり、イライラしにくくなったり、音や触感に敏感すぎる反応が和らぐケースもあるんです[8]。

感覚に配慮した遊びは、一見シンプルですが、非常に繊細で計算された支援の一つなんですよ。
どうやって「ただの遊び」と見分ける?

療育施設を見学する際のチェックポイント
「遊んでるだけに見えるけど、大丈夫かな…?」
そんな不安を感じたとき、見学の中でチェックすべきポイントを押さえておくと安心です。
まず注目したいのは、支援者(スタッフ)がその遊びの“目的”を説明できるかどうか。
私のときのように、「これは空間認知と微細運動のトレーニングを兼ねています」「共同注意の練習です」といった具体的な説明が返ってくる施設なら安心です。
また、子どもと関わる中での声掛けや介入の質も重要です。
以下のような対応がされているかを確認してみましょう。
- 子どもが困っているときに、タイミングよく支援があるか
- 活動の前後に「今日は何をするか」「何を目指すか」の説明があるか
- 遊びの中での小さな成功に気づき、褒めているか
個別の発達段階に応じた目標が設定されているか、児童発達支援計画や個別支援計画の内容が説明されているか、といった点は“ただ遊んでいるだけかどうか”を見極める重要なポイントです[9]。

さらに、保護者への丁寧なフィードバックがあるかも大切です。
今日どんな活動をしたのか、何ができるようになったかを丁寧に伝えてくれる施設は信頼できますよ。
家でもできる! 目的ある“遊び療育”のヒント
療育の本質が「遊び」であることを知ったら、今度は家でも取り入れてみたくなりますよね。
家庭でも取り組める“遊び療育”には、こんなものがあります。
- ハンカチ落とし → 社会性(ルールを守る)+瞬発力
- 洗濯ばさみ遊び → 指先の微細運動
- 椅子取りゲーム → 感覚統合とルール理解
- お手伝い遊び(野菜ちぎりなど)→ 手順理解+達成感
- 絵合わせカード → 記憶力と言語の関連づけ
ポイントは、「この遊びは何の力を育てているか?」という視点を持つこと。
遊びの意味に気づくことで、日常の関わりがぐっと深まり、お子さんの小さな変化にも気づけるようになります[11]。

無理に“支援者のように”なる必要はありません。
「楽しかったね」「上手にできたね」と声をかけるだけで、子どもにとっては大きな安心と成長につながるはずです。
「療育=遊び」は間違いじゃない

「遊んでるだけ」の裏にある深い設計
「うちの子の療育、ただ遊んでるようにしか見えない……」
そう感じたときこそ、一歩踏み込んで考えてみてほしいんです。
子どもが遊んでいるように見えるその時間は、実は支援者が、
- その子の発達段階
- 特性や得意不得意
- 今必要な刺激や経験
を見極めたうえで、緻密に組み立てた“成長の時間”なんです。
一見すると自由に遊んでいるようでも、声のかけ方、道具の置き方、ほかの子との関わり方まで、すべてに意味があります。

これはいわば、「遊びに見える支援」なんですね。
保護者として大切にしたい視点
療育の効果は、テストの点数のようにすぐには見えてきません。
でも、ふとした瞬間に「あ、こんなことができるようになってる!」と感じることがあります。
私の娘の場合、最初はとにかく「パズル」という遊びに熱中していました。
でも、大好きなパズルをやりたい一心で机に向かっているうちに、気づいたら座っていられる時間がどんどん長くなっていたんです。
結果として、今では座って行う机上課題もしっかりできるようになりました。
また、遊びの中で指先をたくさん使ったおかげで手先が器用になり、日常生活でもできることが増えています。
- 苦手だった音の出るおもちゃに、自分から手を伸ばせた
- 片づけの時間、声をかけたら自分から動き出せた
こうした“変化の芽”は、遊びの中での成功体験や関わりの中で育まれたものです。

だからこそ、保護者としても「ちゃんと訓練されてるか?」だけで判断せず、「楽しそうにしているか」「自信を持って取り組んでいるか」など、子どもの様子そのものをしっかり見てあげることが大切なんですよね。
よくある質問(Q&A)

ここでは、遊び中心の療育について、よくある疑問に答えていきます。
Q
効果が出るまでどれくらいかかりますか?
A
お子さんによって個人差がありますが、スモールステップでの変化を見ることが大切です。
療育の効果は、数日で劇的に現れるものではなく、数ヶ月、あるいは年単位でゆっくりと積み重なっていきます。
特に「遊び」を通じた変化は、目に見えにくい「意欲」や「感覚」の部分から育つことが多いです。
【私の経験では】
正直、私も最初は焦りました。
でも振り返ってみると、遊びの中で「目が合う回数が増えた」「指先が使えるようになった」という小さな点が、ある日、線になってつながった感覚があります。
「即効性」よりも「確実な土台作り」と考えると、気持ちが楽になりましたよ。
Q
家での遊びと療育の遊びは何が違うのですか?
A
最大の違いは「専門的な評価」と「意図的な環境設定」があることです。
家での遊びはリラックスやスキンシップが主な目的ですが、療育では理学療法士や保育士などの専門家が、評価に基づいて活動を選び、環境調整や声かけの仕方まで含めて“遊び”を設計しています[11]。
また、集団の中での振る舞いを学べるのも、家庭にはない療育ならではの環境です。
【私の経験では】
家だとどうしても「遊び相手」になってしまいますが、療育の先生は「あえて手を出さずに待つ」といったプロの関わりをしてくれます。
自分では気づけなかった娘の「伸びしろ」を先生が見つけてくれることも多く、やはりプロの視点は違うなと感じています。
Q
子どもが遊びに参加せず、勝手な行動をするのですが……
A
無理に参加させず、まずはその子が安心できる場所を作ることが優先されます。
集団に入れない時期は、その子にとって「一人遊び(並行遊び)」が必要な段階かもしれません。
療育では、無理やり輪に入れるのではなく、その子の興味がある遊びからスタートし、少しずつ他者を意識できるように誘導していきます。
【私の経験では】
私の娘も、最初はみんなが体操をしていても一人でタイヤを回していました。
でも先生はそれを否定せず、娘の世界を尊重してくれました。
そこから少しずつ先生が遊びに加わることで、今では人と関わる楽しさを知れたようです。
「勝手な行動」に見えても、その子なりの理由や成長のプロセスがあるのだと思います。
まとめ
「療育って、遊んでるだけじゃないの?」
そんな疑問は、多くの保護者が一度は抱くものです。
しかし実際には、遊びという形をとりながら、子ども一人ひとりの発達を丁寧に支える支援が行われています。
そこには、専門的な意図と深い目的があり、ただの遊びとはまったく違う世界が広がっているんです。
「楽しい」からこそ子どもは自発的に関わり、成功体験を積み、やがて大きな自信や力へとつなげていきます。
保護者として、ただの“見た目”に惑わされず、その裏にある支援の本質に気づけたとき。
子どもとの関わり方や療育との向き合い方も、きっと変わってくるはずです。
「遊び」の中には、未来への種がたくさん詰まっています。
その芽を、私たち大人が一緒に育てていきましょう。
脚注・参考文献
- [1] 児童発達支援・放課後等デイサービスの制度概要(厚生労働省)
- [2] 遊びを用いた小児作業療法の役割(成育医療研究センター)
- [3] 児童発達支援ガイドラインにおける計画と評価(厚労省)
- [4] 乳幼児期の遊び・感情と学びの関係(文科省資料)
- [5] 運動遊びがからだと心に与える影響(日本小児科学会)
- [6] 遊びを用いた手先・生活動作の支援(成育医療研究センター)
- [7] ごっこ遊びと社会性・非認知能力(文科省資料)
- [8] 感覚統合理論と発達障害の理解(日本障害者リハビリテーション協会)
- [9] 児童発達支援計画・評価の仕組み(児童発達支援ガイドライン)
- [10] 遊びを通じて育つ力とその捉え方(文科省資料)
- [11] 小児作業療法における専門職の役割(成育医療研究センター)


